世界最大級のセミクジラと世界唯一のアジア系コククジラ、ドワーフミンククジラの全身骨格標本が展示されている、東京海洋大学品川キャンパスへ!無料で楽しめる博物館がなんと2つもあるのです。
品川駅港南口から徒歩10分、東京海洋大学品川キャンパスの学内には「鯨ギャラリー」というクジラの全身骨格標本が満載の小さな博物館と、クジラから魚類、漁業の歴史まで学べる「マリンサイエンスミュージアム」の2つの博物館があり、共に無料で楽しめるクジラ&海好きにはたまらない場所。
校門を入って真っ直ぐ歩道を歩くと、大きな窓が特徴的な「鯨ギャラリー」がひっそりと佇んでいます。クジラの骨の独特な匂いが香る、その小さなギャリーにはド迫力の全身骨格標本を無料で堪能できる贅沢な施設。展示されている全身骨格標本は2体。全身骨格標本展示の中でもなかなか見ることができない貴重な種類ばかり。
【その1】世界で唯一のアジア系コククジラの雌成体骨格標本
メス(約13m)の個体で2005年7月に宮城県女川町江島沖で混獲された親子の母クジラ。同時に捕獲した子クジラ(メス/約8m)は、宮城県石巻市鮎川浜 牡鹿ホエールランド(現在休業中)に展示されているそう。
【その2】完全な骨格標本としては世界最大級のセミクジラの骨格標本
オス(約17m)の個体で1961年8月にアラスカ半島コディアック島南方沖で発見。頭骨の全長は約5mと体長の30%に達し、上顎が湾曲しているセミクジラの特徴がよくわかる標本。
この博物館の醍醐味は、ヒゲクジラ類のセミクジラとコククジラ、ハクジラのツチクジラ(頭骨のみ)を間近で比較できること。ヒゲクジラ類に共通する頭骨の主な特徴は2つ。
1)左右対称
2)下顎の先が割れている
この共通の特徴を踏まえて、セミクジラとコククジラの頭骨を比較してみるとその違いに驚きます。海底を耕すように索餌するコククジラの下顎は太く大きく、セミクジラは長く伸びたひげ版を使って泳ぎながら口を開いて餌を濾しとるように食べるため、上顎は特徴的なアーチ状構造。餌の食べ方でこれほど頭骨の形を変えてしまうとは…どんな進化を経てこのように変化していくのか、叶うなら見てみたい。
上顎の根元付近に耳の骨があるですが、今回はコククジラの耳の骨を撮影。セミクジラは展示の位置関係から撮影できず…このカタチも種類によって違うそう。今回も種類によってカタチが違う特徴的な骨を比べてみました。
【1】首の骨(頸椎)
哺乳類の首の骨(頸椎)は数が決まっていて全部で7つ。クジラも例にもれず7つあるのですが、水中を泳ぐために紡錘形に体を進化させたことでクジラは首をなくして、7つの首の骨はぎゅっとまとまっています。セミクジラとコククジラを比較してみると…
セミクジラ
肋骨の間からなので、ちょっとわかりにくいですが、7つの首の骨が一体化(癒合)。これは泳ぎながら餌を食べるからでしょうか?
コククジラ 7つの骨がすべて独立しているのがわかります。餌の食べ方から、セミクジラのように7つの首の骨を一体化する必要がなかった?
【2】胸の骨(胸骨)
私たち人間の胸の骨は、心臓や肺を守るように全ての肋骨と繋がっていますが、クジラは水中で生活しているためか、一部の肋骨に繋がっているだけです。2種類の胸の骨をお腹側からみると…
セミクジラ 台形状の盾のようなカタチ。何か重要な臓器を守っているのでしょうか?
コククジラ 7つの骨がすべて独立しているのがわかります。餌の食べ方から、セミクジラのように7つの首の骨を一体化する必要がなかった?
【3】骨盤痕跡
クジラは水中生活への適応進化の中で、骨盤や足の骨などを退化させていきました。陸生生活時代の面影となる骨。
セミクジラ 流木のような骨に大腿骨を思わせる骨が。大腿骨のような骨はこの個体だけ?
コククジラ 二等辺三角形のようなカタチ。ヒゲクジラの典型的なカタチだそう。
【4】V字骨
尾の筋肉を支える尾椎のお腹側にあるV字型の骨
セミクジラ
V字骨出現部分の2~5番目まで大きな骨が張り出している。泳ぎながら餌を食べるため、推進力を得るために大きな筋肉が必要だから?
コククジラ
V字骨出現部分の1~7番目まで大きな骨が張り出しているが、セミクジラと比較すると小さい。海底の泥を濾しとって餌を食べているので、早く泳ぐ必要がないから?
このように同じ部位でも種類のよってカタチが違うので、その違いを見つけて比べたり、どうしてその様なカタチになったか想像してみるのも面白いです。
2体の全身骨格標本展示の奥にはツチクジラ頭骨が。この標本は鴨川シーワールドの寄贈標本。ツチクジラは日本近海に棲むハクジラの仲間で、ツチクジラの名前は長いくちばし(吻部)が、工具の槌に似ていることに由来しているそう。
ハクジラはヒゲクジラと違い、左右が非対称で下顎骨もつながっています。展示個体も下顎はつながっていて、ツチクジラの特徴でもある先端の2対の歯も。オス同士はこの歯で闘うと言われていて背中には無数のひっかき傷が見られるそう。そして上顎のつけ根部分には卵型の耳の骨も観察できます。
「鯨ギャリー」には、展示パネルや展示しているクジラ類の概要とまとめた小冊子が置いてあるので、気になる方はお持ち帰りを。
2体の珍しいセミクジラ、コククジラの全身骨格標本とツチクジラの頭骨に続いて、こちらも珍しいドワーフミンククジラの全身骨格標本を見に、隣接している「マリンサイエンスミュージアム」へGO!
「鯨ギャラリー」の裏手にあるウッドデッキが特徴的な「マリンサイエンスミュージアム」。入口を入って2階に上がると、広い展示室がお目見え。一番のお目当てであるドワーフミンククジラの全身骨格標本は特別展コーナーに。台座に置かれているので、真近くで観察することできる嬉しい展示。この骨格標本は1988年3月に南極海鯨類調査により捕獲したオスの個体で、日本でひとつしかない唯一の標本で貴重なもの。
ミンククジラには、19年9月現在で2つの亜種、クロミンククジラとドワーフミンククジラが確認されていて、ドワーフミンククジラは、ミンククジラの矮小型で体長は7mほどで小さいく、肩から胸ヒレのかけて大きな白斑があるのが特徴だそう。また、鼻の骨周辺のカタチもミンククジラとは違うそうなので、実際に見て違いを見つけてみるのも楽しいかも。頭骨のカタチの違いは展示パネルや「鯨ギャラリー」で無料配布している小冊子に書いてあるので、興味のある方はチェックしてみて。
そして、特別展示コーナーからクジラ展示スペースへ!ミンククジラの頭骨からスナメリ、ハンドウイルカ、アマゾンカワイルカの頭骨がズラリと並び360度から見ることができるので、色々な角度からじっくり観察できます。特に貴重なアマゾンカワイルカの頭骨標本は要チェック。ほかの博物館ではレプリカ展示が多い中なんと本物!じっくり見てほしい逸品。向かいには、現在確認されているクジラ類のミニチュアが!その奥には各種クジラヒゲ、胎児の液浸標本、クジラの進化の概要パネルなど勉強になる展示が目白押し。
ギリギリに来ると2つの博物館を駆け足で周る羽目になりめちゃくちゃ後悔します…訪れるならゆっくり見られるように計画しましょう。筆者はギリギリを選び、都合2回以上品川キャンパスに足を運びました…。無料だからといって甘く見ていると、見どころ満載で度肝を抜かれる再訪必死の博物館。
博物館は16時までなので、時間があれば品川駅から歩いて10分の「アクアパーク品川」に立ち寄ってみては。他では見られないイルカショーも堪能して、1日クジラDAYにするのも楽しいかも。
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東京都品川区
東京海洋大学品川キャンパス
◇鯨ギャラリー
営業時間:月~金 10時~16時
土 10時~15時
休館日 :日祝・入学試験期間等
入場料 :無料
展示骨格標本
セミクジラ
コククジラ
ツチクジラ(頭骨のみ)
◇マリンサイエンスミュージアム
営業時間:月~金 10時~16時
休館日 :土日祝・入学試験期間等
入場料 :無料
展示骨格標本
ドワーフミンククジラ
ミンククジラ(頭骨)
スナメリ(頭骨)
ハンドウイルカ(頭骨)
アマゾンカワイルカ(頭骨)
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行き方
東京駅 → 品川駅港南口 → 徒歩10分 → 東京海洋大学品川キャンパス
時間:20分
費用:165円
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訪問時期 18年10月、19年8月
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